今こそ知りたい! NPPVのケアとアセスメント:急性期~終末期まで
【急性期】急性期NPPVのケア(ストレス緩和)
- 掲載:2024年07月
- 文責:メディカ出版
![今こそ知りたい! NPPVのケアとアセスメント:急性期~終末期まで <br>【急性期】急性期NPPVのケア(ストレス緩和)](https://www.imimed.co.jp/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_thumb_eye.jpg)
1分サマリー
急性期は呼吸困難が強く、言いたいことをうまく伝えられない状況に、不安・苛立ちを生じやすい。
アラーム音が鳴り響く、孤独で自由に動けない環境は、ストレスとなってせん妄を誘発する。
患者リークや陽圧換気による不快感が解決できなければ、NPPV継続の危機に陥る。
マスクの圧迫による皮膚トラブルは、予防的に皮膚保護材を貼付すれば防げるということではない。
はじめに
非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation;NPPV)適応の基本は、意識があり治療に協力できることが前提です。しかし、意識がある分、NPPVを導入しなければならない状況に強い不安を感じ、思うように動けないことやうまく話せないこと、マスクや陽圧換気による不快感・苦痛は耐え難いストレスとなって、NPPV継続の危機に陥ります。
ストレス緩和の基本は、丁寧な説明と快適性の追求に時間をかけることです。そして、看護の力で、患者がNPPVの効果を実感できるよう「できた」「良くなった」という小さな成功体験を積み重ねることが、急性期NPPVの成功につながります。
不安・苛立ちに伴うストレス
NPPV導入時は特に呼吸困難が強く、苦しさのあまり、問いかけにうなずいていても、実は不安や苦痛をうまく訴えられずに我慢していることがあります。思うように動けない、言いたいことをわかってもらえない状況は、苛立ちとなってストレスが生じます。導入時は、マスクを装着する前にNPPVをイメージできるよう丁寧に説明し、マスクを一時的に外したいときは、呼吸状態の許す範囲で短時間でも要望に応えることを約束します。
そして、導入と同時に目標を立て、いつごろ・どんな状態になれば・何ができるかを具体的に説明することで、患者も目標を持って頑張ることができます(表1)。
![](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img01.jpg)
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アプローチの引き出しを増やす視点
コミュニケーションの工夫で主観的情報を引き出す
呼吸困難が強く、伝えたいことを思うように言えない急性期では、クローズド・クエスチョンで、首を振って「はい」「いいえ」を表現できる方法や、「1.とても感じる」「2.少し感じる」「3.感じない」の三者択一方式で、番号を指で表したり、指差しで選択してもらう方法をとると、負担を最小限に抑えつつ患者の情報(苦痛の状況)を引き出せます。
環境に伴うストレス
〇 孤独で自由に動けない環境
重症患者は個室管理されることが多く、生体機器に囲まれた環境は、不安や不眠、ストレスを招き、せん妄の引き金となります。また、体には複数のチューブが留置されコード類も多く、自由に動くことができない環境です。しかし、危険だから「一人で動いちゃダメ」と制限してしまうと、せん妄を助長してADL低下につながります。どこに気をつけ、どこまで動いてよいかを明確に伝え、チューブやコード類を整理し、安全な環境を整えることで日中の活動を維持することが大切です。
そして、夜間は照明や騒音に配慮し、睡眠を確保することで昼夜のメリハリをつけます。日中はテレビやラジオで気分転換を図り、部屋にカレンダーや時計を置いて生活感を保つこともストレス緩和につながります。また、家族写真や手紙は、患者の「頑張ろう」というやる気を引き出すきっかけにもなります。
〇 アラーム音
突然のアラーム音は、自分に何が起こっているのか、驚き、不安、恐怖を与えます。NPPVでは、アラームが鳴りすぎない緩めの設定で異常を察知できる適正な値を探ります。アラームが鳴ったときは、患者の状態を確認すると同時になぜ鳴ったのかを丁寧に説明し、安心感を与えることで協力も得られます。
マスクリークに伴うストレス
〇 リークの影響
リークには、マスクの呼気ポートから余分な空気を排出する意図的リーク、マスク周囲からの漏れを意味する非意図的リークがあります。急性期で使用する院内用機器V60ベンチレータ(株式会社フィリップス・ジャパン)は、①総リーク:Tot.Leak(意図的リーク+非意図的リーク)と、マスク、ポート設定をすることで ②患者リーク:Pt.Leak(非意図的リーク)を表示できます(図1)。
![リーク表示の違い](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img02.jpg)
ある程度のリークは機器が補正してくれるため、患者リークを「ゼロ」にする必要はありませんが、リークによる不快感や苦痛が長引くことでストレスを生じ、NPPVを継続できなくなることもあります。また、リークはトリガーエラー、換気量や吸入酸素濃度低下にもつながるため、早急な対応が必要です。
〇 リーク対策
日中は問題がなくても、睡眠時にはマスクのずれやリークの不快感から無意識にマスクを外したり、開口して唇がマスクからはみ出したりすることがあります。このような場合、チンストラップ(図2)の装着で予防につながることがあります。マスクの固定は、後頭部から見たときにヘッドギアが逆三角形(図3)になるよう左右バランスよく固定します。胃管チューブによるリークには、NGチューブパッドを用いると隙間を埋めることができます(図4)。患者リークの主な原因と看護ケアを[表2]に示します。
![図リーク対策](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img03.jpg)
![表2患者リークの主な原因と看護ケア](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img04.jpg)
アプローチの引き出しを増やす視点
マスクフィッティングを共有する
NPPVを成功に導くためには、マスクに伴うストレスを軽減すること、つまりマスクフィッティングが鍵を握っています。しかし、マスクフィッティングをスタッフ間で共有することは簡単ではありません。マスク装着評価表(図5)などを用いて、OJT(on the job training)を行いながらフィッティング技術の向上と共有を目指しましょう。
![](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img05.jpg)
《 クリックで別タブで開きます 》
陽圧換気に伴う合併症(腹部膨満、口渇、眼の乾燥)
NPPVは、マスクを介して気道と食道に乾いた空気を押し込んでしまうため、腹部膨満、口渇、眼の乾燥といった合併症を生じやすい状況にあります。このような不快感が続くと、陽圧換気に耐えられなくなり、NPPV継続が困難になります。主な合併症と看護ケアを[表3]に示します。
![表3主な合併症と看護ケア](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img06.jpg)
アプローチの引き出しを増やす視点
スタンバイを押して強い風による圧迫感を防ぐ
スタンバイを押さずに一時的にマスクを外した場合、機器はリークと勘違いして設定圧を維持しようと補正し、マスクを再装着したときに大量の空気が送気されてしまいます。無駄なアラームによる不安、大量の空気が送り込まれる圧迫感の予防のためにもスタンバイを活用しましょう。
陽圧換気中の急激なSpO2低下は要注意!
SpO2が普段より3~4%低下したときは、何らかの呼吸・循環動態の急性病変の疑いがあり1)、注意が必要です。患者の要因では、痰づまり、気胸を合併した場合は緊急胸腔ドレーン挿入が必要になります。胸郭の動き、呼吸音の減弱や左右差の有無を観察することで異常を早期に発見できます。
アプローチの引き出しを増やす視点
SpO2が著明に低下する患者の飲水にはオキシマスクが有効
マスクを一時的に外したとき、穴の大きく開いたオキシマスク:OxyMaskTM*(コヴィディエンジャパン株式会社)を使用すると、酸素投与を中断することなく、飲水、内服、マウスケア、吸引などが行えます(図6)。
![オキシマスクを使用しながら飲水する様子](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img07.jpg)
マスクの圧迫・皮膚トラブル(MDRPU)
マスクによる圧迫は、医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer ; MDRPU)の危険因子です。予防的に皮膚保護材を貼付した場合、しわ、よれ、ずれ、継ぎ目によるリークに注意が必要です。また、貼りっぱなしでは発赤を見落とし、褥瘡になってから発見することもあり得ます。皮膚トラブルは、不快感や疼痛だけでなく、NPPV継続の危機に陥るため、予防することが前提です。[表4]に皮膚トラブルの原因と看護ケアを示します。
![表4皮膚トラブルの原因と看護ケア](/wp-content/uploads/2024/07/medica_202407-2_img08-2.jpg)
ここが強化ポイント
〇急性期はクローズド・クエスチョンを活用し、患者の苦痛を最小限に、主観的情報を引き出します。
〇急性期NPPVケアの基本である、丁寧な説明と快適性の追求がストレス緩和につながります。
〇NPPV成功の秘訣は、適切なマスクフィッティングをスタッフで共有することと、OJTによる知識と技術の底上げが重要です。
〇気管挿管を望まない、NPPVを治療の上限とするケースが増加しており、症状緩和とともに患者・家族の思いも日々変化することを踏まえ、意思決定を支援することが重要です。
【 引用・参考文献 】
1. | 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会ほか編.“酸素療法のモニタリング:パルスオキシメータ”.酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドライン 改訂版).東京,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,2017,102. |
2. | 生駒周作.“最初が肝心! マスクの導入とフィッティング術”“リーク対策のあれこれ”“皮膚トラブルの予防と対処”.この一冊でズバリ知りたい! とことん理解! NPPVまるごとブック.石原英樹ほか編.呼吸器ケア2014年冬季増刊.大阪,メディカ出版,2014,122-46. |
3. | 渡部妙子.“急性期NPPVのストレスに対するケア”.医師・ナースのためのNPPVまるごと事典.石原英樹ほか編.みんなの呼吸器Respica2019年夏季増刊.大阪,メディカ出版,2019,134-9. |
4. | 日本呼吸器学会NPPV ガイドライン作成委員会編.“急性呼吸不全におけるNPPV の導入方法”.NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン.改訂第2 版.東京,日本呼吸器学会,2015,16-8. |
5. | 前掲書4.“効果に関連する因子とトラブルの対処”.30-4. |
提供元:みんなの呼吸器 Respica 2023 vol.21 no.6(メディカ出版)
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