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NPPVとハイフローセラピーの比較 こんなときはどちらを選ぶ?
抜管後、再挿管リスクを1つ以上有するケース

  • 掲載:2024年06月
  • 文責:メディカ出版
NPPVとハイフローセラピーの比較 こんなときはどちらを選ぶ?<br>抜管後、再挿管リスクを1つ以上有するケース

症例

ll 型呼吸不全で緊急入院、気管挿管

〇患者:82歳、男性。

〇既往歴:COPD、脳梗塞。

〇現病歴:肺炎球菌性肺炎およびCOPD増悪による ll 型呼吸不全のため、4日前に緊急入院。
NPPVを数時間装着したが忍容性が悪く、気管挿管となった。抗菌薬、気管支拡張薬、全身性ステロイド投与によって病状は改善。

現在の人工呼吸器設定:CPAP+PS(FIO2 0.4、PEEP 5cmH2O、PS 5cmH2O)。呼吸数は16回/minで努力呼吸は認めない。

動脈血液ガス所見:pH 7.38、PaO2 92mmHg、PaCO2 52mmHg、HCO3 29mmol/L。

全体的には痩せ型の体格であり、胸鎖乳突筋も目立つ。このまま抜管していいだろうか?

どう考える? 判断のポイント

  • どのような条件を満たせば、抜管していいのだろうか?
  • 抜管後に呼吸状態が悪くなるかどうかを予測する方法はあるだろうか?
  • 再挿管を予防するためにできることはあるだろうか?

はじめに

抜管後に呼吸状態が悪化し、再挿管が必要となるケースは少なくありません。過去の研究では、抜管された患者のうち15~20%で再挿管が必要となり、また再挿管された患者の予後は悪くなることが報告されています1)。したがって抜管する際には、再挿管という事態にならないように、入念な計画と準備が必要です。

抜管の手順

近年では、自発覚醒トライアル(spontaneous awakening trial;SAT)、引き続いて自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial;SBT)を実施し、いずれも成功すれば抜管するという手順を踏むことが一般的です。SATは鎮静薬を中止すれば患者が目覚めるかどうかの確認、SBTは人工呼吸による補助がない状態で患者が耐えられるかどうかの確認です。日本集中治療医学会・日本呼吸療法医学会・日本クリティカルケア看護学会が合同で発表した人工呼吸器離脱プロトコルを、一例として紹介します(2)


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〇SATの手順表1

SAT開始安全基準を満たしたら、鎮静薬を中止・漸減します。鎮痛薬は変更しないことが一般的です。その状態で30分~4時間程度の観察を行います。SAT成功基準を満たしたら続いてSBTを実施します。SATに失敗した場合は、翌日再評価を行います。


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〇SBTの手順表2

SBT開始安全基準を満たしたら、人工呼吸器設定をCPAPまたはTピースに変更します。FIO2は0.5以下で、CPAPの場合はPEEP≦5cmH2O、PS≦5cmH2Oを目安とします。その状態で30分~2時間の観察を行います。SBT成功基準を満たせば、そのまま抜管を考慮します。SBTに失敗した場合はもとの人工呼吸器設定に戻し、失敗した原因を同定し対策を講じた上で、翌日再評価を行います。


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抜管後再挿管のリスク因子

SAT・SBTに成功して抜管に進む前に、再挿管に至るリスクがどれくらいあるかを評価します。抜管後の再挿管を、「気道のトラブル」と「呼吸不全の進行」の2つのパターンに分けて整理すると理解しやすいでしょう(もちろん、両者が混在していることもしばしばあります)。

〇気道のトラブル

気道のトラブルとして多いのは、喉頭浮腫と、気道分泌物の排痰困難です。

喉頭浮腫

気管チューブの刺激などによって喉頭浮腫が生じていることがあります。その場合、抜管すると上気道閉塞が生じ、急速に呼吸状態が悪化します(多くは30分以内)。48時間以上の長期人工呼吸、女性、大口径の気管チューブ、外傷症例などがリスク因子として知られています。これらのリスク因子が存在する場合は、抜管前にカフリークテストによるスクリーニングを行います(表33)


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カフリークテストが陽性、すなわちリークが少なくて喉頭浮腫が疑われる場合は、予防的ステロイド投与を検討します。抜管12時間前から、4時間ごとにメチルプレドニゾロン20mgを合計4回静注する方法がよく用いられています4)

気道分泌物の排痰困難

抜管後に気道分泌物が多く、咳嗽が弱くて効果的な排痰ができないと、呼吸筋疲労や無気肺などで呼吸状態が悪化するリスクがあります。しっかりと排痰できるかどうかを抜管前に評価する方法として、カフピークフロー(cough peak expiratory flow:咳嗽時最大呼気流量)の測定があります。頭部挙上の状態で患者に咳をしてもらい、その際の呼気最大流速をカフピークフローとして測定します。
カフピークフローが60L/min以下の場合は、抜管失敗となりやすいという報告があります5)。抜管後は、適切な加温・加湿、水分バランスの管理、こまめな排痰ケアを行い、早期離床を心がけましょう。

〇呼吸不全の進行

抜管直後に大きな問題がなかったとしても、数時間から数日の経過で徐々に呼吸不全が進行し、再挿管が必要となるケースもあります。このような症例では、呼吸筋疲労や気道分泌物クリアランス低下、PEEPが解除されたことによる肺胞虚脱や肺水腫の増悪などが、呼吸不全の原因として考えられます。抜管後に再挿管となってしまうリスク因子としては、[表4]のようなものが挙げられています6)


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予防的な呼吸デバイスの使用

これまで、抜管後に再挿管となるリスク因子にどのようなものがあるかを解説してきました。そのような患者に対して、抜管直後からHFNCやNPPVといった呼吸デバイスを用いることで、再挿管を回避できることが報告されています。2017年の国際ガイドラインでは、抜管後呼吸不全のリスクがある患者に対して、予防的にNPPVを用いることが提案されました(弱い推奨)7)。その後はHFNCにも再挿管を予防する効果があることが報告され、2020年のガイドラインではHFNCも同様の推奨を受けています(弱い推奨)8)

それでは、NPPVとHFNCのどちらが優れているのでしょうか?これについてはいくつかの研究結果が報告されていますが、現時点でははっきりとした答えは出ていません9)。それぞれの患者や施設の状況、医療チームの習熟度などによって選ぶのがよいでしょう。エビデンスとして確立したものではありませんが、選ぶ際のいくつかのポイントを紹介します。

〇NPPVの利点

HFNCと比べてNPPVが優れている点として、「確実なPEEPをかけられること」「換気補助ができること」があります。このような利点を生かせる疾患に対しては、一般的にはHFNCよりもNPPVが勧められます。具体的には、うっ血性心不全や、COPD増悪、ll 型呼吸不全などです。これらの患者に対する抜管後の呼吸補助デバイスとしては、まずはNPPVを検討するのがよいでしょう。

〇HFNCの利点

HFNCは患者快適性が優れていることが、大きな利点です。抜管直後は意識の回復が完全ではなく、NPPVを装着することで不穏やせん妄を誘発するおそれがあります。特に高齢者や認知症などのせん妄のリスク因子を有する患者では、HFNCの患者快適性が有利にはたらくと考えられます。喀痰吸引のアプローチがしやすいのも、HFNCの利点のひとつです。NPPVは排痰を阻害してしまうリスクがあるので、喀痰が多い患者や排痰が弱い患者では、HFNCが優れているかもしれません。

アプローチの引き出しを増やす視点

ll 型呼吸不全にはHFNCよりもNPPV?

換気量を増やさなければならない ll 型呼吸不全患者に対しては、換気補助ができるNPPVが一般的には推奨されています。しかしながら近年では、COPDをはじめとした ll 型呼吸不全に対し、HFNCは必ずしもNPPVに比べて劣っていなかったという報告がされつつあります10)。実際の臨床現場においても、ll 型呼吸不全の患者にHFNCをつけて何とかなったということを、時折経験します。

抜管後呼吸不全となってしまった症例

ここまで、HFNCやNPPVを抜管直後から「予防的」に使用することについて解説してきました。抜管後にこれらのデバイスを使用せず、通常の酸素マスクや鼻カニュラで酸素投与していた患者が呼吸不全となってしまった場合は、どうすればよいでしょうか。HFNCやNPPVを装着するべきでしょうか?

抜管後呼吸不全に対するNPPVの使用は、再挿管の遅れから死亡率の悪化につながる可能性があるため、推奨されていません7)。HFNCについてはしっかりとした研究がされておらず、有用かどうかわかっていません。少なくとも現時点のエビデンスでは、抜管後呼吸不全となってしまった症例に対しては、速やかな再挿管を心がけるべきだといえるでしょう。

本症例の経過

今回の症例では、高齢かつCOPDの既往があり、抜管後呼吸不全のリスクがあると考えられました。ll 型呼吸不全が想定されるため、換気補助もできるNPPVを抜管後から装着することを検討しました。しかしながらICU入室前にNPPVの忍容性が悪かったことから、患者快適性を重視して抜管後はHFNC(FIO2 0.4、流量50L/min)を装着しました。経過は良好で、翌日ICUを退室しました。

ここが強化ポイント

抜管は自発覚醒トライアル(SAT)、自発呼吸トライアル(SBT)のステップで進めましょう。

抜管後の再挿管リスクを事前に評価し、必要な準備を整えましょう。

高リスク患者に対しては、抜管直後からの予防的なHFNCやNPPVを検討しましょう。


【 引用・参考文献 】

1. Thille, AW. et al. Oxygenation strategies after extubation of critically ill and postoperative patients. J Intensive Med. 1(2), 2021, 65-70.
2. 日本クリティカルケア看護学会.人工呼吸器離脱プロトコル2015.https://www.jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf〔2023. 9. 9〕
3. Wittekamp, BH. et al. Clinical review: post-extubation laryngeal edema and extubation failure in critically ill adult patients. Crit Care. 13(6), 2009, 233.
4. François, B. et al. 12-h pretreatment with methylprednisolone versus placebo for prevention of postextubation laryngeal oedema: a randomised double-blind trial. Lancet. 369(9567), 2007, 1083-9.
5. Smina, M. et al. Cough peak flows and extubation outcomes. Chest. 124(1), 2003, 262-8.
6. Kacmarek, RM. Noninvasive Respiratory Support for Postextubation Respiratory Failure. Respir Care. 64(6), 2019, 658-78.
7. Rochwerg, B. et al. Official ERS/ATS clinical practice guidelines: noninvasive ventilation for acute respiratory failure. Eur Respir J. 50(2), 2017, 1602426.
8. Rochwerg, B. et al. The role for high flow nasal cannula as a respiratory support strategy in adults: a clinical practice guideline. Intensive Care Med. 46(12), 2020, 2226-37.
9. Fernando, SM. et al. Noninvasive respiratory support following extubation in critically ill adults: a systematic review and network meta-analysis. Intensive Care Med. 48(2), 2022, 137-47.
10. Tan, D. et al. High-flow nasal cannula oxygen therapy versus non-invasive ventilation for chronic obstructive pulmonary disease patients after extubation: a multicenter, randomized controlled trial. Crit Care. 24(1), 2020, 489.

提供元:みんなの呼吸器 Respica 2023 vol.21 no.6(メディカ出版)

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