第48回 日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー1
「Targeted Temperature Managementの 最前線-TTMの未来」ご報告
- 掲載:2021年01月
- 文責:クリティカル・ケア部
![第48回 日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー1<br>「Targeted Temperature Managementの 最前線-TTMの未来」ご報告](https://www.imimed.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/20jaam-48th-ls1_eye.jpg)
日時 : | 2020年11月18日(水) 12:25~13:25 |
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会場 : | 第2会場(長良川国際会議場 4F 大会議室) |
演者 : | 井上 明彦 先生 |
座長 : |
志馬 伸朗 先生 |
チラシ : |
第48回日本救急医学会総会・学術集会(2020年11月18日~20日、会長:岐阜大学大学院 医学系研究科 救急・災害医学分野 小倉 真治先生)が、現地とWEBのハイブリット形式にて開催されました。弊社では、株式会社メディコンと共に、「Targeted Temperature Management の最前線-TTM※の未来」と題したランチョンセミナー1を共催しました。
※ | TTM(Targeted Temperature Management):目標体温管理療法 |
▲ 座長 志馬 伸朗 先生
▲ 演者 井上 明彦 先生
演者の井上先生がご勤務される兵庫県災害医療センターは、独立型高度救命救急センターであり、救急部の先生方が、来院前を含めた初期治療から、手術・麻酔・集中治療までを一環して診療されています。
病床数は30床(ICU12床、HCU18床)で構成され、主に3次救急疾患を対象とし、年間搬入件数は約1,100件あるそうです。
約500例の外傷のうち、重症外傷は約250例、また院外心停止患者は約200-250例であり、PCAS(心停止蘇生後症候群)に対し、ECPR(体外循環式心肺蘇生)をはじめとした神経集中治療を行い、患者様の社会復帰へ向け、取り組まれておられます。
本セミナーでは、TTMの歴史や現状、TTMの展望などについてご講演いただきました。
1. TTMの歴史
まず、PCASにおけるTTMは、いかに二次性脳損傷を予防するかが重要であることをご説明され、過去の主要な論文をご紹介されました。
2002年に低体温療法の有用性を示したHACA study1)やBernard study2)をはじめ、2013年に33℃と36℃のTTMの神経学的転帰を比較したTTM trial3)、2015年に体表冷却と血管内冷却に転帰の差はないという結果が発表されたICEREA trial4)、32℃・33℃・34℃のTTMを比較し、32℃のTTMの安全性を示した2018年のFROST-I trial5)など、数々のRCTについてお話しいただきました。
2019年には、初期調律がノンショッカブルリズムの心停止患者に対するTTMでは、33℃の低体温療法群が、37℃の平熱管理群と比較し、神経学的転帰が良好な割合が高く、ノンショッカブルリズムへの低体温療法の有用性が示された論文6)が発表されたことで、AHAガイドライン2020では、「初期調律がいかなる波形でもTTMが推奨されるようになった」ことをご説明されました。
2. TTMを再考する
2020年に入り、「High-Quality TTM(=質の高いTTM)」という概念を提唱した論文7)が発表されました。
【High-Quality TTM】
- 導入: 蘇生後の再灌流障害を最小限にするために、できるだけ早くTTMを開始すること
- 目標体温: 36℃へ移行後良好な神経学的転帰の患者の割合が15%減少した
- 冷却維持時間: 24hと48hで良好な神経学的転帰に有意差はなく、少なくとも24h以上維持すること
- 復温: ゆっくりコントロールされた復温速度は、良好な神経学的転帰に関連する可能性があるため、復温速度は、ゆっくり(0.15 – 0.25℃/h)、そして特定のTTMデバイスを使用しコントロールされるべき
- 平熱管理: TTM後の発熱は有害な影響を示したため、復温後、少なくとも48h以上は注意深く体温管理をすること
- 薬剤: 鎮痛薬・鎮静薬はTTMを実施する心停止後の患者に使用すべきであり、筋弛緩薬を投与することで効果的にTTM導入が可能である
このHigh-Quality TTMは、日本のほとんどの施設で既に行われている内容であり、一般的な内容ではあるものの、改めてTTMの質について提唱されたことは、非常に重要なことであると述べられました。
3. TTMの普及
TTMとは、体温管理機器を使用するだけでなく、全身管理、即ち[神経集中治療]が重要であることをご説明され、適切なTTMへの取り組みとして、井上先生がインストラクターを務める[神経集中治療ハンズオンセミナー]や[PCASセミナー]のトレーニングの概要についてご紹介されました。
その後、自施設でのTTMについてもご説明いただきました。TTMのプロトコルだけでなく、内科的な全身管理や、シバリング管理などの具体的な内容であり、現場でのTTMの実際について、とても学びが深まりました。
4. 本邦からの発信
井上先生は、J-PLUSE-Hypo Registry(院外心原性心停止ROSC後昏睡状態の低体温療法に関する、日本初の多施設共同登録研究)のメンバーであり、今までにJ-PLUSE-Hypo Registryから発表された論文についてもご紹介されました。
その中で、2020年のより長い復温時間が良好な神経学的転帰との関連を示した論文8)の詳細についてご説明されました。
この結果を機に、日本で多く実施されている緩徐な復温管理が、更に広がっていくかもしれないという可能性を感じました。
5. 進行中の研究
現在進行中の研究として、TTM2 trial(院外心原性心停止を原因とするOHCA患者を、33℃の低体温療法群と、37.5℃の発熱回避群に分け、180日後の転帰を比較した大規模なRCT)や、維持期間についてのRCT、復温速度についてのRCTが行われていることもご紹介されました。
TTM2 trialの結果は2021年には発表予定であり、その他のRCTの発表時期は未定であるため、今後の発表を待ちたいと思います。
6. 今後の展望
目標体温を設定する際は、「すべての症例を同じ目標体温に設定するのではなく、重症度によって層別化することが重要なのではないか」と述べられました。
その中で、脳障害の重症度が高い症例には低体温療法の方が有用という論文8)や、乳酸値を用いて重症度を分け、乳酸値が高い重症群では、32-34℃の低体温療法が有用という結果を示した論文9)を基に、「低体温療法の効果を発揮する患者群があるのではないかと考えている」とも話されました。
また、「客観的なツールである瞳孔記録計を使用することで、ROSC後早期に転帰が予測できる可能性もある」と瞳孔記録計を使用した客観的瞳孔評価の有用性についてもご説明いただきました。
最後に、「一律なTTMではなく、患者の状態に応じたテーラーメイドTTM、全身管理を行うことが重要である」と纏められました。
TTMに関する様々な論文を基に、TTMの近年の動向、最新の情報を基にしたTTMの未来までの幅広い内容を、限られた時間でわかりやすくご講演いただき、TTMへの学びが深まった貴重な機会となりました。
最後に、新型コロナウィルス感染症の影響によりご多忙を極める中、このような素晴らしいご講演をしていただいた井上先生、座長をお務めいただき、スムーズな進行をしていただいた志馬先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
【 文献 】
- 1) HACA. MILD THERAPEUTIC HYPOTHERMIA TO IMPROVE THE NEUROLOGIC OUTCOME AFTER CARDIAC ARREST; N Engl J Med. 2002 Feb 21;346(8):549-56
- 2) Bernard M. Treatment of Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest with Induced Hypothermia; N Engl J Med. 2002 Feb 21;346(8):557-63
- 3) N.Nielsen. Targeted Temperature Management at 33℃ versus 36℃ after Cardiac Arrest; N Engl J Med 2013; 369:2197-2206
- 4) N Deye. EndoVascular Versus External Targeted Temperature Management for Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest. Circulation. 2015 Jul 21;132(3):182-93.
- 5) Esteban Lopes-de-Sa. A multicenter randomized pilot trial on the effectiveness of different levels of cooling in comatose survivors of out-of-hospital cardiac arrest; the FROST-I trial; Intensive Care Med. 2018 Nov;44(11):1807-1815.
- 6) JB Lascarou. Targeted Temperature Management for Cardiac Arrest with Nonshockable Rhythm; N Engl J Med. 2019 Dec 12;381(24):2327-2337.
- 7) Fabio Silvio Taccone: High Quality Targeted Temperature Management After Cardiac Arrest: Critical Care vol24, Article number: 6 (2020)
- 8) Clifton W. Association of Initial Illness Severity and Outcomes After Cardiac Arrest With Targeted Temperature Management at 36℃ or 33℃; JAMA Netw Open.2020
- 9) T Okazaki. Targeted temperature management guided by the severity of hyperlactatemia for out-of-hospital cardiac arrest patients: a post hoc analysis of nationwide, multicenter prospective registry; Ann Intensive Care.2019
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