第45回日本集中治療医学会学術集会 招請講演「急性重症脳障害患者への体温管理」
- 掲載:2018年04月
- 文責:クリティカル・ケア部
![第45回日本集中治療医学会学術集会 招請講演「急性重症脳障害患者への体温管理」](https://www.imimed.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/18jsicm_45th_as_01.jpg)
第45回日本集中治療医学会学術集会、海外招請講演4「Temperature management in critically ill patients with acute brain injury」を共催させていただきました。
弊社が講師のKees Hugo Polderman先生の招請に関わるのは、2009年第36回日本集中治療医学会イブニングセミナー、2012年第15回日本脳低温療法学会招待講演に次いで、3度目になります。以下に講演内容の要旨を報告いたします。
![](/wp-content/uploads/2018/12/18jsicm_45th_as_02.jpg)
冒頭で体温は血圧や心拍数等と同様に重症患者の重要な生理学的パラメータであり、高血圧・低血圧等への対応と同じように体温も許容範囲を超えたならば、積極的に介入していくべきで、特に虚血・再灌流による各組織・細胞が壊れていく過程で発熱が起こり、それを抑制するには低体温療法が効果的と言われ、動物実験で平熱と低体温で細胞死の状態がどれほど違うかを視覚的なデータや、中枢温と脳温は1~2℃乖離が生じるデータを示されました。
次に脳卒中、頭部外傷、心停止蘇生後脳症への低体温療法復温後の発熱など、脳障害による発熱が予後を悪くする臨床的エビデンスを含めてデータで示されだ けでなく、敗血症、新生児HIEにも、低体温療法は有用であるとも示されました。
院外心停止患者に対しての体温管理療法は十分エビデンスがあり、心肺蘇生に関する国際ガイドラインでも推奨されています。
では、「最適な目標温度はどのくらいか?」については、2010年までのガイドラインでは32~34℃という推奨温度が、2013年のNiklas Nielsenらによる33℃ vs 36℃のTTM Trial発表注1)後、2015年のガイドライン改訂で推奨温度が32~36℃に変わりました。
しかし、TTM Trialのスタディ・デザインの問題点や多くの論文で32~34℃が支持されていること、ENLS(Emergency Neurological Life Support)のガイドラインは2012年版から2015年、2017年版に変わっても32~34℃のままであること、AAN(米国神経学会)2017年版ガイドラインでも32~34℃が推奨されていることで、少なくともPCAS患者には平熱療法でなく、低体温療法を実施すべきと主張されました。
![](/wp-content/uploads/2018/12/18jsicm_45th_as_03.jpg)
平熱療法を実施した場合、脳温は37℃、38℃になっている可能性が高く、本当に脳の細胞死を食い止めることができているのか疑問である。36℃を支持される方は国際的なガイドライン上でも認められているので、実施するのは構わないが、我々が治療している救急患者は36℃で効果がなければセカンドチャンスはない。だから自分は最初から低体温療法で行くと断言されました。
実際、低体温療法と平熱療法では合併症が問題視されることも多いが、低体温療法は平熱療法と比較し、不整脈や血圧低下のリスクは増加しないというデータを示されました。
次に低体温療法・体温管理療法で問題となるシバリング対策に触れられ、一番にスキンカウンターウォーミングを行うことを薦められました。この方法は効果も高く、抗シバリング薬の投与を減少させ、意識のある患者さんでも不快感を与えないと言われていました。シバリングは体表冷却、血管内冷却のどちらにも起こりますが、スキンカウンターウォーミングは、特に弊社が取り扱っているアークティックサンには効果的と言われました。
この他、冷却方法についても述べられましたが、体表冷却、血管内冷却のどちらにも一長一短があり、目標体温への到達時間等に若干差があっても、予後には差がないという論文もあるので、冷却方法には拘られていないようでした。
そういった中で、発熱管理120症例の自験例(論文未発表)で、ウォーターブランケット、血管内冷却カテーテル、アークティックサンを比較し、目標体温の維持率では、アークティックサンが最も高かったというデータを示されました。
最後に結語として、冒頭で述べられたように、体温は重要なパラメータで積極的に介入すべきとされ、低体温療法・体温管理療法について、最適な目標体温、体温管理療法の期間、復温速度など、まだまだ未解明なこともあるものの、Polderman先生ご自身の考えとしては、PCAS症例に対しては目標体温32℃で少なくとも24時間は実施し、復温後も36℃は厳密に保つこと、低体温療法の効果のエビデンスがないと言われている脳卒中に関しても、急性の虚血性脳卒中に対しては、低体温療法は効果があると主張されました。
Polderman先生に付けられたあだ名にハイポサーミア・マフィアというものがあり、ご自身も気に入っているご様子で、低体温療法支持派の先生方には心強い講演となりました。
[ 参照 ]
注1) “Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest.”,
Nielsen N, et al : N Engl J Med. 2013 Dec 5;369(23):2197-20
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